小説で定番となっている「悪役令嬢もの」ですが、実際の乙女ゲームにそんな存在はいないという話を聞いたことはありませんか?
結論から言うと、実際の乙女ゲームに悪役令嬢はほぼ存在しません。
この悪役令嬢とは、「悪役令嬢もの」の主人公である断罪・追放・処刑されるキャラクター像を指します。
厳密には近い存在もありますが、断罪される悪役令嬢はほとんどいないのが現状です。近い存在については、記事後半で解説します。
「悪役令嬢もの」は女性向けのライトノベルで人気となり、コミカライズやアニメ化作品も多いジャンルです。しかし現在存在する悪役令嬢ものは、実在の乙女ゲームをそのまま再現したものではなく、創作上で生まれています。
本記事では、「乙女ゲームに悪役令嬢がいない理由」と、それでもジャンルとして成立した背景を解説します。ぜひ最後までお読みください。
乙女ゲームに悪役令嬢がいない3つの根拠
人気ジャンルの悪役令嬢ものは、おおよそ以下の展開をします。
- 主人公が「事故死した前世」を思い出す
- 自分が乙女ゲーム世界の「悪役令嬢」に転生したと理解する
- 悪役令嬢の末路(断罪など)を知っている
- 破滅エンドを回避しようと行動する
- 結果として周囲に好かれ、ハッピーエンドへ向かう
乙女ゲームの悪役令嬢は「断罪されること」が前提となります。ですが現実の「乙女ゲーム」には、悪役令嬢ものに出てくるような悪役令嬢はほとんどいません。
以下では、3つの根拠を解説します。
根拠1. 乙女ゲームのライバルキャラは悪役ではない
乙女ゲームに悪役令嬢がいないと言われる最大の理由は、乙女ゲームに出てくるキャラクターが小説と違って、ライバルであることです。決して悪役ではありません。
たとえば、乙女ゲームの元祖と言える1994年発売の『アンジェリーク』に出てくる「ロザリア」は、典型的なライバルです。縦ロールの髪型と貴族令嬢の設定は、悪役令嬢の元ネタと言えるかもしれません。
ロザリアは平民のプレイヤー=ヒロインを見下す高慢な言動を取りますが、ヒロインに対し問題行動は起こしません。エンディングのひとつでは女王になったヒロインの補佐官になり、友情を育んでいる様子さえ描かれます。
ほかにも『遙かなる時空の中で』シリーズや『薄桜鬼』といった人気作品でも、小説で描かれるような「最終的に断罪されて死ぬ悪役令嬢」は登場しません。ライバルはいても、あくまで恋のライバルとして描かれているのです。
乙女ゲームに悪役令嬢がいないと言われる代表例を挙げました。
悪役令嬢ものを読んで乙女ゲームをプレイしても、期待する「悪役令嬢」はゲーム中にいないでしょう。
根拠2. 婚約者付き攻略対象はゲーム設定として不自然
悪役令嬢もので描かれる乙女ゲームは、そもそもゲーム設定に無理があります。
一部プレイヤーに嫌われる、「カップルを別れさせる」要素が前提になっているためです。
ゲーム開始時点で、悪役令嬢には王太子などの身分ある婚約者がいるものの、その婚約者は優しいヒロイン=プレイヤーと心を通わせていく。嫉妬した悪役令嬢がヒロインを陥れようとし、阻止されて断罪される。この設定がほぼ鉄板です。
カップルを別れさせて振り向かせる行為は、「ネトラレ」と呼ばれます。扱いの難しい要素です。漫画やアニメでは、「ネトラレ」展開を好む人もいれば嫌う人もいます。
攻略対象は婚約者をさしおきヒロインと仲良くなり、ヒロインを庇います。婚約者は正当な立場でありながら、配慮してもらえません。怒って当然で、多少意地悪になっても納得がいきます。しかしゲームでは必要以上に責められ、「悪役」呼ばわりされる設定です。
わざわざ、プレイ層を狭くする必要はありません。
乙女ゲームに悪役令嬢がいないのは、悪役令嬢が存在すると、プレイヤーを選ぶゲームになってしまうからです。
根拠3. 恋愛成就が目標の乙女ゲームと悪役令嬢の不一致
小説の乙女ゲーム内で「悪役令嬢」はゲームの最後に断罪され、エンディングを迎えます。この展開も乙女ゲームでは滅多にありません。
恋愛を主体とした乙女ゲームでは攻略対象から1人を選び、恋を成就させることがゲームクリアの目標です。ゲームによっては攻略対象全員に好かれる「逆ハーレム」エンドもあります。
いずれにしても、目標は「恋愛の成就」です。
戦闘を取り入れたロールプレイングやシミュレーションのゲーム要素があっても、世界を救うことより「誰と結ばれるか」が重要になっています。
「悪役令嬢」を倒すことは、ゲームの目標にはなりえない。ゲーム中の障害としてライバルの存在は盛り上がりますが、エンディングに持ってくる役ではありません。
「悪役令嬢」が途中で振られてゲームから退場し、その後ほかの障害を乗り越えて結ばれるならまだわかります。ですが小説内では振られるだけではなく、追放や処刑までされて終わります。後味が悪く、ハッピーエンド感が薄れかねません。
「断罪される悪役令嬢の姿」が最後に出てきても、ゲームクリアの達成感にはつながらないのです。乙女ゲームに悪役令嬢がいないのは、当然とも言えます。
乙女ゲームに悪役令嬢がいないのは、ゲームの本質的な構造と相反するためです。
悪役令嬢がいない乙女ゲームが小説に使われた3つの理由
実際に乙女ゲームに悪役令嬢がいないなら、なぜ小説では存在するのか。
小説では使い勝手がいい設定だからです。
以下で3点の詳細を解説します。
理由1. 乙女ゲームの都合のよさ
「乙女ゲーム内の悪役令嬢」を誕生させたのは小説であり、小説の構成上乙女ゲームを設定すると都合がよかったのでしょう。
ジャンル成立のきっかけと人気のムーブメントを起こしたのは、小説投稿サイト『小説家になろう』です。ここで、実際の乙女ゲームには存在しない「悪役令嬢」が創作されました。
『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…』(通称『はめふら』)は「悪役令嬢」の言葉を生んだ元祖ではありません。しかし現在のテンプレがほぼ含まれており、悪役令嬢ものの完成形にして始まりと言えます。
『はめふら』は悪役令嬢ものを一大ジャンルに押し上げ、圧倒的な人気を獲得しました。
『はめふら』に限らず、作者はフィクションの小説を書いています。事故死後に異世界転生する、そんなファンタジーを書く時点で、現実のゲームに合わせる必要はありません。
乙女ゲームなら、決められた展開や逆ハーレムを書きやすくなります。転生前の女性が好むものに乙女ゲームを設定するのも、不自然さはありません。
話を組み立てるのに、乙女ゲームは都合がよい舞台装置になったのです。その結果、乙女ゲームにはいないはずの、悪役令嬢が誕生してしまいました。
理由2. 逆転の爽快感
悪役令嬢ものには「破滅が確定している立場からの逆転」という魅力があります。
婚約破棄、追放、処刑といった未来を回避し、努力や工夫によって幸福をつかむ。不幸が決まっている運命をひっくり返す展開は、逆転劇そのものです。
「不幸からの逆転劇」とまとめると読者に好かれる理由がわかりやすくなります。読者は弱者から成功者への転身といった、「逆転する物語」に爽快感を覚えます。
つまりは『シンデレラ』と同じ、普遍的に好かれる要素です。
乙女ゲームにいない悪役令嬢は、小説の主人公として読者の共感を呼ぶキャラクターだと言えます。
理由3. 能動的なヒロイン像
『シンデレラ』と異なる点は王子様に選ばれるのではなく、自分の意思と行動で幸福をつかみ取ることです。
時代に合った「待つだけではなく、行動する強さと積極性を持つシンデレラ」を描いたことが、悪役令嬢ものが人気を博した理由のひとつです。
悪役令嬢はゲームのシナリオ通りに話が進むと、悲惨な結末が待っています。悲劇を回避するため、自分が知るゲームとは違った行動を起こし、周囲との関係を変えていく。本来のヒロインとも仲良くなり、周囲の評価で「悪役令嬢」から「立派な令嬢」に転身する。
努力の結果攻略対象だった男性と結ばれたり、逆ハーレムで幸せになったりします。
能動的で、読者に好まれるヒロインの姿です。
乙女ゲームにいない悪役令嬢だからこそ、小説の主人公として魅力的なキャラクターになりえたのです。
乙女ゲームと悪役令嬢に関するよくある質問
乙女ゲームと悪役令嬢について、よくある質問にまとめてお答えします。
Q1: 乙女ゲームの悪役令嬢はどこから生まれた?
A: 小説投稿サイト『小説家になろう』が発祥です。今人気の「断罪される運命の悪役令嬢」を主人公としてジャンル形成の立役者となったのは、『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…』です。
Q2: 乙女ゲームに悪役令嬢は本当に一人もいない?
A: 完全にゼロではありませんが、小説で描かれるような「婚約者を奪われ断罪される悪役令嬢」はほぼ存在しません。ライバルキャラはいても、悪役とは言えない描写がほとんどです。
Q3: 乙女ゲームに「悪役令嬢っぽい」キャラが出ることはある?
A: 一部作品に似たようなキャラクターはいますが、役割が違います。断罪テンプレはまずありません。
Q4: 悪役令嬢ものの元ネタになった乙女ゲームはある?
A: 特定の元ネタはなく、小説投稿サイト『小説家になろう』で創作として生まれたジャンルです。ロザリアのような典型的なライバルキャラの要素を膨らませて、悪役令嬢が創作されました。
Q5: なぜ乙女ゲームには悪役令嬢がいない?
A: 乙女ゲームの目標は「恋愛の成就」であり、悪役を倒すことではないためです。また、婚約者付きキャラを攻略する設定はプレイヤーを選ぶため、商業ゲームでは避けられています。
悪役令嬢はいないからこそ生まれた「悪役令嬢もの」
悪役令嬢ものは「乙女ゲームに悪役令嬢はいない」という事実があるからこそ、創作として成立したジャンルです。
『小説家になろう』という創作環境がまずあって、そこに読者を惹きつけるテーマで拡大・発展した結果、人気のテンプレになりました。
似た設定があれば「パクリ」と言われやすい現代で、「テンプレのあるジャンル」と認められるほど育ったのです。ランキング形式があるために流行りものを共有して後続が真似やすい、『小説家になろう』の特徴があればこそです。
流行があれば衰退もありますが、悪役令嬢ものは現在まで多数書かれています。このジャンルはまだまだ広がっていくと言えます。
乙女ゲームで「悪役令嬢」の姿を見たい方には、現状は残念かもしれません。
しかしジャンル成立後も派生し変化する悪役令嬢ものの中で、新たな「悪役令嬢」の活躍を楽しんでいってください。
あなたが気に入る「悪役令嬢」は、きっと小説の中で出会いを待っています。

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